黒瀬念仏
夕方近く、山荘のある谷山の尾根を越え、太鼓の音が遠く響いてきました。それを耳にした妻が、「ああ、あの音、きょうはどこかで初盆があるんだ。たしかあんな音だった」と言います。以前妻は、この黒瀬地区の初盆の光景を目にしたことがあります。そしてその時の感動を、おりにふれ話します。わたしは見たことがありませんので、以来、わたしも一度は見てみたいと、思うようになりました。
太鼓の響きは、もう消えていましたが、カメラを手にし、車に乗り、山荘を出ました。ひとくちに黒瀬地区といっても、かなり広くしかも入り組んでいます。初盆の家を特定するのは、簡単ではありません。主な道路を行き、迎え火を用意している家をさがすのです。15分ほど車で走ったのですが、結局、見つけられませんでした。夕明かりの中を、山荘に戻りました。ときおり遠く小さく、太鼓の響きが聞こえてきました。
この行事については、『作手村誌 本文編』(2010.3.31発行)に、黒瀬念仏として次のように記述されています。
「八月十四日の夕方、区長宅に若連や各戸代表がそれぞれの役の服装で集まり念仏を唱える。終わると、初盆の家へ「十二紀門前調」のお囃子をしながら念仏体形を組んで道行きをする。/初盆の家に着くと、新仏の供養に念仏を唱え、その後酒肴や赤飯の接待を受ける。以前は庭先で近年流行し始めた盆踊りに興じたりした。頃合を見て道行きをして帰る」
妻が見た光景は、およそ次のようなものです。何年か前の八月十四日夕方、外も暗くなった七時頃、なにやら囃子らしい太鼓の音が聞こえてきました。わたしはすでに酒を飲んで酔い加減。妻はなんの音だろうと、ひとり山荘を出て、夜の山あいの道をその音の方へと歩いてゆきました。百メートルほどゆくと、山の森を抜け、田んぼの広がる集落へ出ます。そしてその中に、いわば隣組のSさんのお宅にかがり火を見たのです。
Sさんの家へとつづく、田んぼの中のひとすじの路。その路の両端に迎え火が焚かれ、ずうっとSさんのお宅へとつづいています。そしてその路を、哀調を帯びた囃子に合わせ、家の方へと進んでゆくひと連なりの踊り手の列がありました。浴衣を着、菅笠をかむり、時々腰を深く曲げる奇妙なしぐさの踊りをしながら、進んでゆきます。踊り手は誰もほおかむりのようなものをしていて、男なのか女なのか顔は定かではありません。宵闇の中を、迎え火に照らされ進んでゆく踊り手の一連。とっても幻想的な光景だったと、妻は語ります。
後日、それとなくSさん宅に確認をしたところ、亡くなられたおじいさんの初盆だったとのことでした。
夜の苑を、写真に撮ってみようと思いました。
森の夜。山荘の窓からの明かりで、ほんとうはもう少し明るいのですが。

旧暦七月十四日の月。写真に撮ると、ちっちゃいです。

エドヒガン奥の月を撮ろうとしたのですが、ほとんど見えません。

翌朝六時半頃、朝日に向かい。朝から日差しが強いです。

朝日をやや背にして。実際は、朝露にしっとりと濡れています。

以上、2011.8.13-14撮影
太鼓の響きは、もう消えていましたが、カメラを手にし、車に乗り、山荘を出ました。ひとくちに黒瀬地区といっても、かなり広くしかも入り組んでいます。初盆の家を特定するのは、簡単ではありません。主な道路を行き、迎え火を用意している家をさがすのです。15分ほど車で走ったのですが、結局、見つけられませんでした。夕明かりの中を、山荘に戻りました。ときおり遠く小さく、太鼓の響きが聞こえてきました。
この行事については、『作手村誌 本文編』(2010.3.31発行)に、黒瀬念仏として次のように記述されています。
「八月十四日の夕方、区長宅に若連や各戸代表がそれぞれの役の服装で集まり念仏を唱える。終わると、初盆の家へ「十二紀門前調」のお囃子をしながら念仏体形を組んで道行きをする。/初盆の家に着くと、新仏の供養に念仏を唱え、その後酒肴や赤飯の接待を受ける。以前は庭先で近年流行し始めた盆踊りに興じたりした。頃合を見て道行きをして帰る」
妻が見た光景は、およそ次のようなものです。何年か前の八月十四日夕方、外も暗くなった七時頃、なにやら囃子らしい太鼓の音が聞こえてきました。わたしはすでに酒を飲んで酔い加減。妻はなんの音だろうと、ひとり山荘を出て、夜の山あいの道をその音の方へと歩いてゆきました。百メートルほどゆくと、山の森を抜け、田んぼの広がる集落へ出ます。そしてその中に、いわば隣組のSさんのお宅にかがり火を見たのです。
Sさんの家へとつづく、田んぼの中のひとすじの路。その路の両端に迎え火が焚かれ、ずうっとSさんのお宅へとつづいています。そしてその路を、哀調を帯びた囃子に合わせ、家の方へと進んでゆくひと連なりの踊り手の列がありました。浴衣を着、菅笠をかむり、時々腰を深く曲げる奇妙なしぐさの踊りをしながら、進んでゆきます。踊り手は誰もほおかむりのようなものをしていて、男なのか女なのか顔は定かではありません。宵闇の中を、迎え火に照らされ進んでゆく踊り手の一連。とっても幻想的な光景だったと、妻は語ります。
後日、それとなくSさん宅に確認をしたところ、亡くなられたおじいさんの初盆だったとのことでした。
夜の苑を、写真に撮ってみようと思いました。
森の夜。山荘の窓からの明かりで、ほんとうはもう少し明るいのですが。

旧暦七月十四日の月。写真に撮ると、ちっちゃいです。

エドヒガン奥の月を撮ろうとしたのですが、ほとんど見えません。

翌朝六時半頃、朝日に向かい。朝から日差しが強いです。

朝日をやや背にして。実際は、朝露にしっとりと濡れています。

以上、2011.8.13-14撮影
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